2017年8月18日金曜日

【コラム】患者にとって最善の医療とは

さて、いつもサボり気味のコラムですみません。
スマイリーの片木です。
みなさん夏休みは取られましたか?
私は今週夏休みのはずだったのですが、結局ホームページにお知らせをあげることを忘れてしまい、毎日仕事をしていました。
来週は結構パンパンに予定が入ってしまったので、もう諦めます;;
それでもコラム書く時間ができたのでよかった。
(あと趣味のゲームもちょっとだけいつもより遊べた)

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標準治療という言葉が患者さんにとって「最善の医療をしてもらっているように思わない」というお話がかねてからあります。
 
標準治療とは質の高いランダム比較化試験が多くあり、例えば卵巣がんの患者さんに「より有効で」「より副作用の少ない」と科学的に証明された治療がエビデンスレベル(科学的根拠)が高いとして標準治療になっています。
 
でもやっぱり、患者さんからすると「それは”多くの人にとって”であり、自分にとってどうなのか」が理解できず、患者会にお問い合わせをいただくことが多いです。
 
そういったときに、私は患者さんやご家族に「合意形成」の大切さを伝えています。
 
例えば、主治医の先生から
「手術で摘出したものを病理に出した結果、卵巣がんとなりました。病期は3b期です。この場合の標準治療はタキソールとカルボプラチンという抗がん剤をそれぞれ3週ごとに6クール投与する方法です。」
と説明を受けたとしましょう。
 
患者さんとしては「それが私にとってどうして最善なのか」わからないのです。
 
かといって、先日もある医師に言われました。
「片木さんはよく、話し合え、話し合えっていうけれど一日外来患者さん何人くると思う?」と。
本当にその通りで、先生方が一人一人に割ける時間は限られています。
 
私は、ガイドラインは大切な一つのデータだと思っていますが、「ガイドラインに乗ってるからこの治療をすすめる」というのはちょっと反発を感じてしまいます。
卵巣がん治療ガイドラインは2004年、2007年、2010年、2015年と改定され続けています。
つまり、ガイドラインが出た後でも新たな知見が生まれる場合もあるからです。
(僕はこっちの方がいいと思うよ的な思い込みじゃなくちゃんとした研究結果が出るという意味です) 
 
患者さんも「科学的根拠があり、標準治療なんだからこの治療」といわれても、患者さんにも色々な背景もあるでしょう。
例えば仕事を持っていたり、子育て中であったり。
高血圧とか心配だったり。
だから、患者さんにも家族にも「自らがプレイヤーになり治療の方針に参加しましょう」とお話ししています。
医師はエスパーではありませんから「伝えないのに、察しろは無理です」と話しています。
 
医師は、もちろん、科学的根拠(これまでの臨床試験の積み重ねでわかって来たこと)と、医師の経験から患者さんにとって良いと思われる治療方針をお話されると思います。
患者さんはそれを聞いて、わからないことは「わからない」と質問をしましょう。
そして自分の生活で優先したいことをお話ししてみましょうと伝えています。
 
例えば、この間もあったのですが、主治医がドーズデンスTC療法を提案したのですが、患者さん自身、その病院までの電車が数時間に1本しかなく距離も100キロ近いため毎週の通院はちょっと・・・と思われたそうです。
でも患者さん自身はまさか他の治療オプションがあるとも思わないわけで、医師に勧めるといわれるとどうしたらいいかわからないというご相談をいただきました。
私は患者さんに「距離が遠いから通院の負担が大きいことをお話ししてみませんか」といいました。
患者さんが伝えたところ、主治医の先生が「それは大変ですね」とした上で、3週ごとの治療を提案され、患者さんも安心したということがありました。
もちろん、そのことでのデメリットもメリットもお話しされたとのことです。
 
また卵巣がんはプラチナ抵抗性で再発した際にはいくつかの抗がん剤の単剤治療があるわけですが、その時も、「入院は極力避けたい」とか「仕事ができるものがいい」とか生活をしていく上での希望は伝えられていいと思います。
また、前回の治療では吐き気が辛かったのでとか、骨髄抑制がきつかったとかも話してください。
(たくさんの患者さんをみているので先生も確認しないとうっかり忘れてるということもあるかもしれません。)
  
つまり、医師の経験、科学的根拠、患者の気持ちから「目の前の患者さんにとってどういう治療が最善か」合意をしてほしいなとお話ししています。

そうすることで、医師は患者さんの気持ちも聞いた上で選んだ治療であることで自信も持てると思いますし、患者さんも「統計」ではなく「自分のため」に話し合って決めた治療だからと満足感が少しは生まれるのではないかと思います。
 
もちろん、副作用なんて教科書通りに出なかったり、効果も・・・な時はあるかもしれませんが、「自分の命がかかっていることなので、黙っているは辞めましょう」とお話ししています。
 
実はこれ、シェアードディジションメイキングって方法らしくきちんとステップもあります。

大切なのは、合意をした上でどうだったかを最後に医療者は評価することで、また次に繋げていくことなんだと思います。
 
あと合意というのは、患者さんが「インチキ医療をやりたい」といったときに「はいどうぞ」というのではないということだけは合わせて伝えたいと思います。
患者さんやご家族は医師と考えが違っている場合は、どうしてそう考えるのか、どうして提案している治療が最善と思うのか、医師に確認をして説明にしっかり耳を傾けてください。
 
なお、スライドは無断引用等はご遠慮ください。
記事の丸ごとシェアはご自由に。
 
標準治療という言葉云々じゃなく、標準治療がある上で目の前の患者さんにとって最善の診療を考えていくことが大切かなと個人的に思います。

先生に思いを伝えてもいいのだろうかと悩んでいる患者さんやご家族の背中を少しでも押せたら幸いです。