2015年7月31日金曜日

【コラム】前向きは周囲が求めるものではない

こんにちは。スマイリー代表の片木です。
コラムがたいへんご無沙汰になってしまいました。

気がつけば、1年の半分以上が過ぎ、毎月のように各種学会が開催される時期となりました。
私も、来週開催される婦人科腫瘍学会などいくつかの学会に参加します。

コラムをお休みするのは、単なる「あ、今度でいいか」という自分の甘さで忙しいからではないのですが、これからも不定期にですが投稿は続けていきますのでよろしくお願いいたします。


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よく、患者さんからのお話を伺っていて耳にするのが「キャンサーギフト」という言葉。

これを患者さんたちはどういう意味でつかってるのかなぁとお話を伺う過程で興味深く聞いていると、
「がんになったからこそ出会えた人がいる」
「がんになったことで、人の痛みに気づき優しくなるなど自分が成長した」
「がんになったことで、多くの人に支えられてると気づいた」
みたいなことが大半かなぁと思います。

また「がんになって、人生って限られたものだなって感じて、これまでやりたかったけど先延ばしにしていたことにチャレンジします!」といって、マラソンや山登り、アフリカ旅行にマチュピチュ旅行・・・そんな患者さんもいます。

日ごろから患者さんと接していて、こうした患者さんの気持ちの前向きスイッチがはいたことは「うんうん」と頷きながら聞いています。
そういう患者さんが自分の気持ちの持ち方を「キャンサーギフト」と表現するのは、「そういう風に気持ちの持ちようを考えて生活できてるのはいいことだね」とニコニコして聞いています。

もちろんそういったキャンサーギフトを感じる患者さんだって前向きになるときもあれば、ちょっとしたことでドーンと落ち込んだり涙したりする時間もあることは知っているし、私もそういう日があります。

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東京卵巣がんフォーラムで講演くださった桜井なおみさんの講演にもありましたが、人生において衝撃的な出来事に直面したときに気持ちのベクトルが、上向きになるひと、下向きになるひとがあること「レジリエンス」ということを学びました。
下向きになるひとの背景はその衝撃的な出来事のほかにも実は別の悩みを抱えていることもわかってきているというお話を伺いました。
上向きになる、下向きになるは、病気の重さなどで決まるものではないと。
その人には病気以外にも、家族のこと友人のことなどの人間関係や、収入、仕事、家事・・・いろんなことがありますものね。悩みが複数かぶることもあります。
また患者さんの辛い気持ちを聞いていると、ご本人はがんの辛さを話している形でも、実際掘り下げていくと、職場との関係がうまくいっておらず、少し無理をしてでも仕事に行かれているそんな部分も大きく影響してるのかなと感じることも。

実は昨年、慈恵医大の看護師さんと卵巣がん患者さんの意思決定に関する研究をさせていただいたのですが、その研究でも、患者さんの気持ちに関する部分は、早期がんだから、進行がんだからでは測れないことがわかりました。
早期に発見され、その後の予後がたとえよくても、ものすごく気持ちが辛い患者さんがおられるので患者さんと向き合うときにはその患者さんが1期だからとか4期だから、初発だから再発だからって見方はしないようにしようと思ってます。
辛いものはつらい!ですもの。

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患者さんご本人からはOKをいただいているので、少しお話を紹介しますが、ある患者さんからお電話をいただきました。

彼女は卵巣がんになったことで気持ちの落ち込みが強く、外来化学療法室で治療をしているときに急に悲しくなり涙を流してしまったそうです。

それに気づいた外来化学療法室の医療スタッフの方が、声をかけてくださったそうですが、彼女の話を聞いてかけた言葉が
「泣いても笑っても同じ時間だから、笑いましょ」
「がん患者さんでもマラソン走ったり、山を登ったり前向きに頑張ってる人もいるじゃない」
「Aさんも気分転換に体調いいときに体動かすなど前向きにね」
などなどといった言葉だったそうです。

医療スタッフの方に悪意が無いことは彼女もわかっています。
励ましてくれたことに感謝してなんとか笑顔をみせたものの
「私は落ち込むことも許されないのか」
「医療スタッフの方にイラッとするのは自分が卑屈なのか」
と苦しくなったと・・・。

そして紹介された関西の患者会に電話したら
「泣いていたらいつまでもそのままよ!」
「こんど●●山にハイキングに行く集まりがあるからいらっしゃい!喝をいれてあげるわ!」
と言われたそうです・・・。
まぁ患者会にもいろいろあるし、こんな公開の場で偉そうなことを言うなんて小心者の私にはできませんが、思わずGoogleでその患者会の代表者がどんな方か検索してしまいました。

そして彼女に「辛いものはつらいし泣きたいときはいっしょに泣こう」と話したらしばらく泣いておられたので、ただ黙って付き合いました。

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私は、患者さんが不安になったり落ち込む時間は大切だと思っています。
そこで、自分の病気と向き合ったり、どうしたらいいのかなって考えるひとつのきっかけにもなるから。
1期であろうと不安なものは不安でいいんです。

そこで、私がお手伝いできるのは、「どんな患者さんでも不安になることはある」と受け止めた上で「じゃいっしょに考えようか」と交通整理をするお手伝いだけです。
私は医療者じゃないので治療法を決めたりはできないのでできることはそれだけです。

患者さんは優しいから、周りが前向きを求めると笑ってしまいます。
でもそれは前向きじゃないですよね。我慢です。

そしてね、患者さんが前向きベクトルを働かせることを周囲が求めちゃダメなんだと思うんです。

もちろんマラソンが好きで走るならいいと思います。
山登りが好きで登るならいいと思います。
私の、キャン友のなかでも、走ったり登ったりの患者さんはおられます。
中にはトライアスロンにチャレンジする方も。
でもそういった方たちでも落ち込むことあると思います。

有名人でもがんを公言して活躍されている方がいます。
そのキラキラした部分だけをみて、私たちにキラキラすることを求めないで欲しいなと思います。

一部患者さんの中にも自分がいま元気でいる理由を「神さまに生かされた」なんて鳥肌が立つようなキラキラ表現をされる方がおられて、「じゃあがんで亡くなる方は神様に見捨てられたのでしょうか」と毒を吐きたくなりますが、まぁそういうキラキラ信者は、そういうキラキラしていることで自分を保ってらっしゃるのかなと生温かく見守っておけばいいのだとおもいます。

と、話がいつもどおりあちゃこっちゃ行ってますが、患者のみなさん!
「落ち込んだっていーんです!」
「不安になったっていーんです!」
「泣いたっていーんです!」(川平慈英風)

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ただ、一方で「気持ちがつらい」とご相談いただいていても、途中で支援をすることをやめてしまう場合があります。

どういう場合かというと、「医療的支援がその患者さんにベストと思う場合」が大半です。

患者会に聞いているのだからと一時的に安心されるのですが、悩まれていることは医療的なアプローチが必要なことなのですぐに不安になり、日に何度も連絡をしてこられます。
もちろんこちらも、こちらは医療者じゃないので交通整理しかできないこと、ここから先は主治医にご相談いただきたいことなどをお話しするのですが、電話で話がすむ手軽さからか、そういった患者さんはずっとこちらに電話することをされます。

申し訳ないのですが対応し続けることは患者さんの依存を生み、患者さんのためになりませんので電話には出ないようにしています。

あとは、やはり人としてどうかと思う場合ですね。
常識的ではない時間の電話、患者会なのだから患者につくして当たり前(会員じゃない方なので会費すら払ってくれないひとに何で尽くさなきゃならないのかと笑いたくなりますが)、ストレスのはけ口として罵詈雑言を浴びせる人・・・そういった場合は二度と電話には出ません。

またカルト宗教などへの勧誘ですかね(意外と多い)。

まぁ、こういう1年に何度かある特殊な例は別ですが、私たちスマイリーは理念として「活動のすべては卵巣がん患者さんのために」としていますので、それを忘れずに日々頑張っていけたらいいなと思っています。