2014年10月25日土曜日

【コラム】患者を惑わす「個人の思い込み」

こんにちは。10月も後半になり、目覚めたときに毛布から離れたくなくなってきましたね。
これから春まで毎日2度寝の危険性に晒されるスマイリーの片木です。

10月3日に放送されたTBS金スマSP。
この回のタイトルは「医者に殺されない47の心得が大ベストセラー異端の医師・近藤誠は預言者か?扇動者か?ガンは放置、手術しない!に医療界が猛反発」。
番組に出演した近藤氏(医師と呼びたくありません)を讃えるようなタイトルに閉口しますが、番組をご覧になった患者さんやご家族も少なくないのではないかと思います。

番組後しばらくは、スマイリーにも患者さんやご家族から放送内容を受けてのお電話がありました。

私自身は残念ながら当該の番組を見ておりませんので、あくまでも患者さんやご家族のお電話から番組内容を推測するしかないのですが、近藤氏が相変わらずの「がんもどき」理論を振りかざしていること、手術や抗がん剤による治療に関して否定的な内容であったように推察します。

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卵巣がんは、発見時にはすでに進行がんであることも多く、初回の手術や抗がん剤治療が奏効しても再発したり、治療に苦慮する患者さんは少なくありません。

どれだけ主治医と良いコミュニケーションを取れている患者さんであっても、やはり治療による副作用が辛かったり、ましてや効果があまりみられなかったりすると落ち込んだり、「本当にこれでよかったのかな」と心が揺れてしまいます。人として当然のことです。
そういった患者さんやご家族にとって、金スマの掲げたタイトルはまるで近藤氏がまともなことをしている医師であるような印象を与え、そして世の多くの医師が悪いという印象を与えるものであり、番組をごらんになった患者さんがこれまで担当医師と話し合って進めてきた決断(手術や抗がん剤)について不信感をおぼえ、治療が不要だったのでは」という誤解を生み、不安になられていることに憤りを感じます。


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ここからは少し難しい話になります。

私たち卵巣がん患者が受けている標準治療は、お薬が誕生する(承認される)までの臨床試験(治験)、承認されてからも、これまでに承認されたお薬に比べて効果があるのか副作用はどうなのかといったことを確認するための臨床試験を経て、標準治療となっています。

もちろん、それは「多くの患者さんにとってより効果があったもの」であり「多くの患者さんにとってより副作用が少なかったもの」であるので、残念ながら患者さんによっては効果がない患者さん、副作用が出てしまう患者さんがいます。

でも、そうした情報の蓄積があるからこそ、「この薬では髪の毛が抜けますよ」と事前に説明がでたり、吐き気や倦怠感など副作用が出た場合にも対応ができるのです。

臨床試験(治験)についてはきちんと論文化され学術として発信されます。
そのなかできちんと抗がん剤には延命効果や、がんの抑制効果があることが認められています。
もちろん卵巣がん治療においてもです。

相当ハードルが高くなってしまいますが、興味がある患者さんは独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のサイトでお薬に関する情報など検索されてみるのもいいかもしれません。

つまり、近藤氏の主張する「抗がん剤は効かない」は学説的に誤りです。

また、近藤氏は自らの主張をきちんと証明する論文を出しておらず、著書で一般の患者さんやご家族を惑わすようなことばかりを主張しているのは明らかです。
がんは放置していてオッケーといわんばかりのこの主張こそなんら学術的に明らかにされてない野蛮な意味での「人体実験」ではないかと私は思っています。

少し横道にそれてしまいますが・・・。
すでに厚生労働省のWebページで名簿が公開されているのでお話していいと思いますが、私は厚生労働省の臨床試験についてのある会議の構成員になっています。
そのときに、近藤氏のような学術ではなく「個人の思い込み」を主張する人があたかも大学の名を語って本を出版していることは大問題ではないのかと発言したことがあります。
そのときのある大学の先生からの答えが「学問の自由だから」・・・・。怒りが沸騰しました。
きちんとした臨床試験の計画が組まれ、倫理審査や論文の査読など多くの目が通らない、なんら科学的な証明がなされない近藤氏の行なっていることは学問なのでしょうか?
近藤氏の「個人の思い込み」を信じて、適切な医療を受けられなかった患者さんの不利益は自己責任なのでしょうか・・・。

臨床試験について幾つかの不祥事があり、世論が厳しい中でトンデモ発言がまかりとおってしまうことと、それを「自律」と「自浄」ができないことが最終的に患者さんを不安にさせているひとつなのかもしれません。

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昨日もネット上でこのような記事を読みました。

「近藤誠(元慶応病院医師)が「子宮頸ガン検査不要」と憤る理由」
(リンクが切れていたらごめんなさい)
「上皮内がんはおできみたいなもの」「放置しておけば問題ない」としてあたかも広汎摘出することが悪であるような主張と記事。
もうこれは見過ごしていいレベルではないのではと感じざるを得られません。
婦人科腫瘍学会や産婦人科学会には毅然とした対応を望みます。


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スマイリーとしてもTBSに対して、また放送番組の倫理を扱うBPOに対して金スマSPの放送内容に問題があったことを指摘する文書を送っています。

辛い思いや葛藤を抱えている患者さんが不利益をうけるこのような情報が垂れ流しにならないように願うばかりです。