※スマイリー代表 片木美穂のフェイスブック投稿の一部を抜粋して掲載します。
患者様には難しい内容かも知れませんが、お薬に関する重要な問題ですのでお時間があればお読みください。
みなさまも既にご存知だと思いますが、化血研が承認を取った方法と異なる方法で製品を作っていた問題。
朝日新聞より:http://www.asahi.com/articles/ASHD251RLHD2ULBJ00K.html
医薬品等制度改正検討部会で薬事法の改正に携わった立場として、稚拙な文章ではありますが思いを書きたいと思います。
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私は、ドラッグ・ラグ問題と向き合う中で、お薬を患者さんに届けるためには質の高い臨床試験(治験)が必要であることを知りました。
お薬が疾患に効果があるというデータとともに、有害事象や副作用にどういうったものがあったのか、どの程度であるかなどのデータを臨床試験で出し、そのお薬が有益なのかどうかを慎重に判断(審査)して承認に至ることを知りました。
もちろん承認に至るまでには臨床試験の結果のほかにも、そのお薬がどういう過程で製造されるかといったことも企業が書類として提出し審査されます。承認後もそれを守ること、変更の際にはきちんと必要な手続きを踏むことが義務付けられています。
詳しくは医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(旧薬事法)を参照ください:http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%96%F2%8E%96%96%40&H_NAME_YOMI=%82%A0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S35HO145&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1
承認された後も、患者さんを守るために、製造販売については企業には正しい製造販売が求められます。実際に、私たちが早期承認を求めたドキシルも、卵巣がんに適応をとった(承認された)あと供給停止になったことがあります。それは当時製造していた米国の会社のなかで製品の行程に問題があったことが分かったためです。
当時の資料:http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001wlr3-att/2r9852000001wlvf.pdf
企業はそれに対してしっかり対処し、現在は問題を起こした米国の工場ではなく別の国で製造されています。もちろん製造の工程が変わるにあたってはきちんと国の指導を仰ぎ、適切なプロセスを踏んでおり、ドキシルはいま患者さんに届いています。
お薬はそうした科学的根拠や、製造する上での行程、また販売後も市販後調査など厳しい条件が課せられた上でお薬は患者さんの治療薬として届くのです。
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以前、イチャモン免疫療法にノーという表明をしたときに、ある患者会の代表の方にこういわれました。
「患者さんは、がんという病気を向き合ったとき藁にもすがる気持ちで、たとえそれが効かない可能性が高くても治療したいものなのよ。」と。
私もがん患者です。自分がもしも治療に苦慮をしていたならそんな気持ちにならないとはいえません。
でも効果と有害事象を科学的にしっかり出していないものは、患者さんにとって「治療」なのでしょうか?むしろ患者さんに高額な出費をさせ、体に針をムダに刺す痛みを与え、余計な予期せぬ有害事象で苦しめる可能性だってあるのだと反論したことを覚えています。
それくらい、患者さんにお薬が届くために必要な臨床試験(治験)には厳密なルール(薬事法、GCP、倫理指針等)が課せられているのです。
(詳しく知りたい人は、ヘルシンキ宣言、ニュンベルク綱領、GCP、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針など検索して読んでください。)
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なぜ私がそこまで思うのか。
私たちがドラッグ・ラグと戦ってきたときに、もうひとつ厚生労働省で戦っていた人たちがいます。
薬害肝炎被害者のみなさんです。
ドラッグ・ラグについて訴えていた頃、マスコミは「薬害被害とドラッグラグを相反するもの」というイジワルな質問を何度も私たちにぶつけてきました。
薬害は、簡単にいえば、「そのお薬が問題があるとわかっていても用いられ続けたことによる被害」です。
ただ私は当時は薬害について不勉強で(今も不勉強かもしれませんが・・・)、当時厚生労働省などで見かける被害者のみなさんが、いったい何を話しているのだろうと姿を見かけたときは話を聞いたり、本や新聞記事を国会図書館で探したりして、薬害とはなにか、どういうことを国に求められているのかといったことを知ろうとしました。
そこでわかってきたのが、薬害肝炎の被害者のみなさんのなかには薬害被害によるC型肝炎と向き合う中で「インターフェロン治療」や「ペグインターフェロン+リパビリン療法」などといった治療を受けられる方がおられること。
「インターフェロン治療」が奏効せずに絶望を感じられたときに、「ペグインターフェロン+リパビリン療法」が承認されて奏効された被害者の方がおられること。
それでもC型肝炎ウィルスが消えずに、さらにその後、新しく開発されるお薬を期待している被害者のかたがおられることを知りました。
(長くなるので薬害肝炎がどうして起きたのかという過程については割愛しました。)
C型肝炎治療のいずれの治療も副作用はあり、薬事法改正のときに隣の席には薬害肝炎被害者の女性が座られていましたが、治療の副作用による高熱を出されながらも、薬事法改正にあたり二度と薬害を起こさぬよう魂をこめた意見をいわれていた姿勢には頭が下がる思いでした。
薬事法の改正の議論より数年さかのぼりますが、薬害肝炎の検討会に一度ヒアリングで呼ばれたことがあります。その時に、地下のサブウェイで「片木さん、自分の肝炎は進行してもう猶予が無いんです。薬害の再発防止も必要だけど、お薬の開発も待ったなしなんです」と私の手を握られ涙ながらにお話くださった薬害肝炎被害者の方もおられました。
つまり、薬害被害者の方は「決してすべてのお薬を否定しているわけでもない」し、「お薬には副作用があるということ」もご存知なのです。
つまり「有効で安全なお薬を患者さんに」という思いは同じであり、薬害肝炎の被害者のみなさんの戦いを見守りながら、それより以前に起きたスモン・HIV・サリドマイドなどの資料もたくさん読んで、この国の医薬品の開発のあり方はどうしたらいいのか…。お薬には効果という科学的根拠と、有害事象や副作用がどれくらいなのかという科学的根拠を示す質の高い臨床試験を行なうこと、そしてそれを製造開発、販売がきちんとされるよう規制(制度)が必要なことを学んだのです。
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薬事法改正の検討会は「薬害vsドラッグ・ラグ」というような報じられ方もしましたし、私の思慮と配慮の足りなさも災いして辛い思いをしましたが、私は決して薬害被害を軽んじていたつもりではなく、薬事法改正の会議に臨むにあたり、何度も 「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」 の最終提言を読みました。
報告書:http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/04/s0428-8.html
この提言には「もう二度と同じ辛い思いをする人を作りたくない」という薬害再発を起こさない強い思いが詰め込まれています。この提言書は薬の開発に携わる人たちにとって無視をしてはいけないとても重たい提言です。
いっぽうで薬事法を改正するにあたり、最終提言をもとに改正をするという厚生労働省の方向性は理解しつつも、行き過ぎた規制により医薬品開発が萎縮しないようにしなければという思いもありました。
半年間、私にとっては薬事法を読み込み、現行の規制を学び、薬害肝炎の最終報告書を読み込み・・・そのうえで、病気と向き合う患者さんのためにどうしたらいいのかという視点を大事に委員の職務を全うしたつもりです。実際に下記の最終提言書は、会議の最終日に座長に一任とされそうなのを、薬害肝炎被害者の委員と私とで「納得がいかない」として年明けに大幅にずれ込む形で、厚生労働省と1文字まで話し合いまとめあげました。薬の開発の萎縮につながらないよう、また薬害被害者を二度と生み出さないよう思うから当然のことです。
報告書: http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000020uxm.html
実際にこの報告書は活かされ、「 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(略して薬機法) 」「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」として法整備され、さらに最近では拡大治験(日本版コンパッショネートユース)の基となっています。
拡大治験:http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000097784.pdf
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先日、ある方に「片木さんが臨床試験(治験)に求めるものはなんですか?」と聞かれました。
「臨床試験は、病と向き合う未来の患者さんに新しい治療を届けたり、どの治療がより適切なのかということを示すために必要なものです。
そして、患者さんに予想される副作用はどんなものかを示し守るものでもあると思います。
また薬害を二度と生まないためにも質の高い臨床試験を行なうこと、それに基づいた科学的根拠に基づく医療を行なう必要があると考えます。
つまり、臨床試験は新しい治療を生み出すことと、患者さんを守ること、両方の意味があると考えます。
臨床試験の結果がネガティブになり研究者の方は落ち込むこともあるかもしれませんが、そのネガティブな結果が無駄な治療から患者さんを守る一助になるのかもしれないのです。
決してその研究は無駄ではないのです。
私たちの命を守ってくださりありがとうございます。」
そういう思いでいただけに、こうした、研究の先の、実際に製品を製造し販売する側でおきた出来事に本当になんとも言えない気持ちになりました。
(薬事法の改正の会議でも製薬業界がどんな発言をしていたか・・・結局きれいごとを言って実情はこれかよと思うばかりです。)
患者さんにお薬を届けるには臨床試験が必要だと感じて様々な提言をし、踏ん張って踏ん張って踏ん張ってがんばってきたつもりですが今回の化血研の報道は思いを踏みにじられた気がして本当に悲しいです。
製薬企業のWebサイトにはどこも綺麗な言葉が並んでいます。
本当にその言葉どおりの企業運営になりますよう、これ以上、いのちを軽視した問題が起きないよう願うばかりです。